遅くなりましたが・・・


お盆休みで時間が取れたので
いまさらですが2月の東武さんでの個展の作品、
載せておきます。


「もののふの」日本画 SM

もののふの八十をとめらが汲みまがふ 寺井の上の堅香子の花

大伴家持


「梅よりもなほさきだちて」日本画 SM

梅よりもなほさきだちて山人と 名におふ花や花のこのかみ

本居宣長


「いよよくれないに」日本画 SM

陽に倦みて雛芥子いよよくれないに

木下夕爾


「風にさからへる」日本画 SM

白木蓮の散るべく風にさからへる

汀女


「くれないの花」日本画 F3号

岩が根にすがりて咲ける岩鏡 河かぜ寒しくれないの花

窪田空穂


「春とも知らぬ松の戸に」日本画 F3号

山深み春とも知らぬ松の戸に絶え絶えかかる雪の玉水

式子内親王


「面影にのみ」日本画 F6号

いつのまに散り果てぬらむ桜花 面影にのみ色を見せつつ

躬恒


「風のなごり」日本画 M30号

さくら花ちりぬる風のなごりには 水なき空に浪ぞたちける

紀貫之

明日最終日


いよいよ明日は個展最終日。
じつは初日がいちばん体調の悪い日にあたり
会期二日目までお客さんが切れるとくったり状態。
三日目くらいから絶好調。
やっと調子がでてきたとこなのにな。

おかげさまでたくさんの方に来ていただいて
楽しい時間をすごしました。
ありがとうございました!!

アップした絵はお庭のニゲラとシナワスレナグサを描いたもの。
一番最初にお嫁入りがきまり
あまり皆さんに見ていただけなかった作品。

日本画 SM

 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける

紀貫之

「あなたのお心は、さあ、どうだか知らないが、むかしなじみのこの里の梅の花だけは、むかしとかわりなくよいかおりで美しくさいているよ。」
 
もちろんニゲラの歌なんてないので
ぴったり、というわけにはいかなかったけれど
ワスレナグサが描かれている、ということで
むかしとかわらず美しく咲いているよ、
あなたのことはわすれてないよ、という意味をこめて。
どっちかというとこの歌へのお返事のような絵なのです。

木下美香日本画展は池袋東武にて明日16時30分まで!
(明日はわたしは不在です)
木下美香展は銀座ギャラリーオカベにて3/18~3/23開催予定!

あさぢふの


いよいよ明日が搬入となった。
絵のほうは数日前にすべて描き終えたのだけれど
今日額装されたものがお昼ごろどさっと届き
それぞれ箱と作品両方に名前シールをつけたり
添えた歌を展示用に書いたりバタバタと忙しかった。
箱がなくって箱だけ注文したものの
肝心の額が入らないものがあったり
自分で額装したもののガラスの汚れをみつけたり
絵がないない、とあわてて探し回って
はた、とプレ展示用に先日送ったことを思い出したり・・・
もっと早く終わると思ったのに
思わぬことで時間がかかってしまった。
早く寝なくちゃ!
明日は午前中はお仕事
夕方から搬入。

今日の作品はちびっこながらお気に入りの一枚。
こういう春の野はスケッチも楽しい。

日本画 15×30cm

 あさぢふの菫まじりのつくつくしまだ野辺しらぬをとめ子ぞつむ

『漫吟集』 契沖
 
あさぢふ、とは浅茅生と書き
ちいさな茅が生えているような野の枕詞だそう。
つくつくし、ってほんとうにつくつく生えてる
つくしの表現にぴったり!
なんだかかわいらしい歌であるね。

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!
木下美香展は銀座ギャラリーオカベにて3/18~3/23開催予定!

時々の花は咲けども


うちのお庭にもこのバイモは植わっているのだけれど
これは桃を描きに行ったはずが
あまりにきれいだったのでこっちを描いてしまった
そのスケッチをもとにしている。
ゆるゆると螺旋を描くようにからまりあう葉っぱで互いに支えあい
強い風の中で倒れそうにみえながらしたたかになびいていた。


日本画 15×30cm

 時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来でこずけむ

丈部真麻呂―(万葉集 巻二十・四三二三)
 

「季節季節の花は、それぞれに咲き出るけれど、どうして母と言う花は咲き出ないのだろう。」

防人のうた。
母とふ花、とはこの貝母(バイモ)だという説がある。
写真も電話もメールもない時代、
遠く故郷を離れ国を守る仕事につく若者の
母を恋しく思う気持ち。

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!
木下美香展は銀座ギャラリーオカベにて3/18~3/23開催予定!

花のまぎれに


山桜はソメイヨシノより華奢でたおやか。
葉っぱが出るのと同時くらいに咲くので
描くにも絵になる。
ただ高いところにあることが多いのでなかなか描けないのが悩み。
これはたまたま斜面に樹があって
斜面の上に通っている道から描けた。

ひらひらと花びらが舞う。

画面に落ちた花びらは上から絵具をのせておいて
乾いてから外すといいかんじに臨場感が出るし
花びらのかたちも正確に記録できる。
山のお花は一期一会。
出会えたことはほんとうにラッキー。

日本画 F4

 山かぜにさくら吹きまきみだれなん 花のまぎれに君とまるべく

僧正遍照

雲林院の親王が舎利会のために比叡山に登って帰ったときに、桜の花のもとにて詠んだ歌 

「山風で桜の花を吹き巻いて、花が、乱れ散って欲しい。あなたがここに立ち止まって帰れないようにするために。。」

別れを惜しむきもちを桜に託す。
桜を見ていると幸せになるけれど
はらはら散るさまはやっぱり切ない。

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!
木下美香展は銀座ギャラリーオカベにて3/18~3/23開催予定!

ほのほのと


お花は基本、野に咲いているまま描く。
切って花瓶に入れると不自然になるしエネルギーも減ってしまう。
なので今回出すほとんどの作品は
お外で描いたスケッチをもとにしている。
唯一これだけが切って描いたスケッチがもと。

ちょうどこの花が満開のころ
余命の少ない生徒さんにマンツーマンで教えに行っていた。
がんの手術で声を失った彼女は
ほんの2ヶ月足らずで家族に残す絵を仕上げて
旅立っていってしまった。
彼女と一緒に描いたスケッチが何枚かあるのだけれど
そのうちの1枚でも
ちゃんと本画にしておきたかったのだ。
ところが意外と苦労してしまった。
描いても描いても気に入らない。
暗い絵にしたくはなかったのだけれど
どんどん暗くなってしまって
もうダメだ、と潰してしまった。

しばらく離れて別の絵を描いたりして
間をおいて
続きを描きたくなったところで再開。
なんとか仕上がった。


日本画 F6

ほのほのとわがこころねのかなしみに咲きつづきたる白き野いばら

『銀』木下利玄

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!

紆余曲折ありまして・・・


デパートは3回目だけれど前2回はほとんど売れなかった。
デパートは基本売れなければ次はない。
2回目の最終日、
もう次はないなとほとんどあきらめて片付けをしていたら
担当のTさんが額についてのアドバイスをしてくださった。
前にも書いたけれどわたしはシンプルでナチュラルで
きらきらしてない額が好き。
普通の額よりちょっと変わった箱額が好き。
でもそれではデパートでは売れないと。
額のせいばかりではないだろうとはおもうけれど
額で印象はがらりとかわる。
気取った雰囲気になるのがきらいなんだけど
デパートはすこし気取らないとダメなのかもしれない。
そして話題は次の方針に。
・・・え?次あるんですか~?!やったあ!
「なにか他の人とは違うテーマがあるといいんですけど、
得意分野ってありますか?」
「きのこはどうでしょう?」
「・・・」
「では野の花」
「ほかにいるんですよね~」
「では野の花に昆虫」
「・・・虫は苦手な人もいるから・・・」
「う~ん・・・桜」
きいていた画商のTさんが割って入る。
「桜を描く人は多いんですけど、センセイのは
 ちょっとかわってるんですよ」

・・・そんなこんなで次は春に桜でやることになったのだった。

あとでTさんは
「なんでもっとはやく桜が出ないかなあ!
 きのことか虫とかいうからドキドキしちゃった!」
だって他の人と違うかんじっていうから・・・。
「きのこは1点くらいあってもいいけど、メインにはできないよね。」
よし、1点くらいならあってよいのね。


日本画 SM

さくら花としのひととせ匂ふとも さても飽かでやこの世尽きなん

式子源師光、新勅撰集105番

「桜の花よ、春だけでなく一年中咲き匂うとしても、私は見飽きることなく一生を終えることだろうよ。まして春だけの花だから見飽きたりしない。」

こっそりまぎれさせる予定のきのこ作品。
ちょうど桜の時期にでる美味しいきのこ、アミガサタケ。
ヨーロッパではモリーユとよばれるポピュラーな食用きのこ。
去年、桜を描いていたらだんだん風が強くなってきて
あまりに枝が揺れて描けなくなっていたところ
足元に立派なアミガサタケの株があって
ちょうど美しい散りたての花びらに埋もれていたので
スケッチした。
これならいくら風が吹いてもほとんど揺れない。

春の風はきまぐれ。
美しく咲き誇る桜を惜しげもなく散らし
薄桃色の花びらを舞い上げる。
ほんと、もっと長く咲いてくれればよいのに。
桜もアミガサちゃんも1年中あっても飽きないのに。

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!

月は東に


春はわくわくと自転車で出かけたくなる。
自転車通勤で茨城県の守谷まで行くことがあるのだけれど
利根川沿いのサイクリングロードをず~っと走る。
菜の花の季節は
ここは極楽浄土ではないかとおもうくらい美しい。
きらきら光の中見渡す限りどこまでも
まぶしい黄色で埋め尽くされている。
ゆるい春風にのってほのかにあまい菜の花の香り。
空高くひばりの声。
・・・
はっ!!うっかり三途の川を渡ってしまいそうだ。
お仕事、お仕事!
あわててペダルを踏む。

たいてい帰路でしかスケッチの時間がとれないのだけれど
春の夕方は午前中の穏やかさがうそのような
つよい風が吹くことが多い。


日本画 F4号

菜の花や 月は東に 日は西に

与謝蕪村

この歌がとても好き。

ほのほのとしたぬるい空気。
あわい夕焼け。
薄くしろく輝き始めた月。
夕焼けを反射する一面の菜の花。
このかんたんな言葉の組み合わせの中に
ぎゅっと凝縮された春の光景。

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!

風よりさきにとふ人もがな


枝垂桜は意外と弱いらしい。
去年描いたあの樹にそろそろ花が咲くはず、と出かけても
同じように美しく咲いていたためしがなく
毎回新しい樹をさがすことになる。
この樹はとても立派だったので
今年も描けるんじゃないかと期待している。
枝垂桜のすだれの下でスケッチをするのは
ほんとうに幸せ。

日本画 F10号

やへにほふ軒ばの桜うつろひぬ風よりさきにとふ人もがな

式子内親王・新古今集137

「幾重にも美しく咲き匂っていた軒端の八重桜は、盛りの時を過ぎてしまった。風より先に訪れてくれる人がいてほしい。」

家の八重桜を折らせて、惟明親王のもとにつかはしける。

生涯独身を通したという式子内親王。
甥の惟明親王に庭の桜に添えてこの歌をおくった。
返歌は
つらきかなうつろふまでに八重桜とへともいはですぐる心は
「冷たいですねぇ。
盛りが過ぎるまで、八重桜を見に訪ねろとも言わず過ごされた
あなたのお心は。」

美しい桜をだれか大切なひとと眺めたい、
昔も今もかわらないきもち。

式子内親王:式子は「しきし」とも(正しくは「のりこ」であろうという)。
      御所に因み、萱斎院・大炊御門斎院などと称された。
      後白河天皇の皇女。

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!

知る人ぞ知る


今日はいちだんと寒い。

昨日額屋さんと画商さんがみえていろいろ相談。
額によって絵の見え方はずいぶんちがう。
わたしはナチュラルであんまりきらきらしていないほうが好きで
いわゆる箱額、箱の中に浮いてるような額装が好きなのだけれど
前回デパートの担当の方からのアドバイスもあり、
箱額は封印、すこし金色銀色も取り入れることに。
画商のTさんからご紹介いただいた額屋さんは
1週間ほどで作ってくださるということ。
それでももう差し迫っているので
来週の火曜日までにはすべて仕上げなくては!

こちらはちょっと大きめ。M12号の作品。
おそらくちょうど来週くらいに
いつもの梅はこの状態になっているだろうな。
まだちょっと寒い時期
ふくふくとつぼみがまるくなる。
わくわくと見つめているときらきら朝日がさしてくる。
ヒヨドリの騒がしい声
メジロの羽ばたき
早咲きの梅の香り
春のはじまり。

日本画 M12号

君ならで誰にか見せむ 梅の花 色をも香をも知る人ぞ知る

友則・古今集38

「あなた以外の誰に見せよう。梅の花を――その色も香も、わかる人だけがわかるのだ。

の花を折って人に贈った時、添えた歌。歌に言う「知る人」は、花を贈った相手を指すと同時に、風雅の心を共有する自身をも暗に指していよう。梅を通して、その人の趣味の高さを賞賛し、共感を訴えた歌。

高貴なあなたならわかりますよね、みたいなかんじで男性に贈った歌なんでしょうね。
でも意味深な恋の歌ともとれるところがまたよいなあ。

木下美香日本画展は池袋東武にて2/28~3/6開催予定!